残業代が出ない会社で3年働いた末に、労基署に相談した話

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3年間、サービス残業をしていた。正確に言えば、残業代が支払われない残業だ。月の残業時間は平均で40〜50時間。タイムカードは定時で打刻させられて、それ以降の作業は「自主的な勉強時間」と呼ばれていた。

最初の1年は「みんなそういうものだ」と思っていた。2年目は「このくらいの規模の会社なら仕方ない」と自分に言い聞かせた。3年目の秋、税込み年収が280万円しかないことに気づいたとき、初めて「これはおかしい」と確信した。

この記事は、その後労基署に相談し、未払い残業代の請求まで至った実体験の記録だ。

なぜ3年間も我慢したのか

サービス残業をやめなかった理由は主に3つある。「証拠がない」「会社に居づらくなる」「どこに相談すればいいか分からない」——この3つが重なると、人はなかなか動けない。

当時勤めていたのは埼玉県の中小IT企業、従業員30名ほど。社長は温厚な人物で、表立ったパワハラはなかった。ただ「残業代は出ない、でも給料は平均よりは高い」という暗黙の了解があって、それを破ることへの心理的ハードルが異常に高かった。

動くきっかけになったのは、同僚の退職だった。同じく残業代が出ないことを不満に思っていた同僚が先に辞めて、「自分も変わらないといけない」と思った。

証拠の集め方——これが全てだった

労働問題で最も重要なのは証拠だと、後から弁護士に教わった。労基署に相談に行く前に、自分でできる範囲で記録を集めた。

実際に集めた証拠

  • PCのログイン・ログオフ記録:会社のPCは起動時刻と終了時刻がWindowsのイベントログに残る。自分のPCの記録を3ヶ月分スクリーンショットで保存した
  • 入退館記録:オフィスのセキュリティカードの記録。総務に「過去3ヶ月分をもらえますか」と言ったら何も疑われずにもらえた。このデータが最も有力な証拠になった
  • メールの送受信記録:深夜・休日に業務メールを送受信した記録。GmailやOutlookのログはタイムスタンプが残る。プリントアウトして保存した
  • 給与明細:過去3年分を全て保存。みなし残業代(固定残業代)がいくら設定されているかを確認するため
  • タイムカードのコピー:会社が管理しているが、「自分の記録が欲しい」と言えばもらえる場合もある。もらえなかった場合は法的手段で開示請求できる

自分でつけた記録

労働時間の記録をつけ始めてからは、スマートフォンのメモアプリに「出社時刻・退社時刻・業務内容の概要」を毎日記録した。2ヶ月間継続した。この記録と入退館記録の整合性が取れたことで、証拠の信憑性が上がった。

労基署への相談——実際にどう動いたか

証拠が揃ったと感じたタイミングで、最寄りの労働基準監督署に行った。事前予約不要で相談窓口があり、担当官が話を聞いてくれた。

初回の相談は約40分。持参した書類(入退館記録・給与明細・PCログ・自分の記録メモ)を見せながら状況を説明した。担当官は「これは未払い残業代が発生している可能性が高い」と言った。

労基署の対応

その後、労基署は会社に対して「是正勧告」の調査を行った。会社側に労働時間の記録を提出させ、実態調査をする。この過程で、会社は「みなし残業代(月30時間分)が支払われているため残業代は支払い済み」という立場を取った。

しかし実態の残業時間(月40〜50時間)がみなし残業の範囲(30時間)を超えていたことは、入退館記録とPC記録で明確だった。労基署は会社に「是正勧告書」を発出し、超過分の未払い残業代の支払いを指導した。

未払い残業代の請求——実際にいくら回収できたか

是正勧告が出た後、弁護士に依頼して正式な請求手続きに入った。弁護士費用は着手金10万円+成功報酬(回収額の20〜25%)という料金体系だった。

計算の結果、請求できる未払い残業代は過去2年分(当時の消滅時効は2年、現在は3年)で約78万円と算定された。会社側との交渉の末、67万円で合意解決した。弁護士費用を差し引いた手取りは約47万円。

「47万円のために動いたのか」と思う人もいるかもしれないが、自分にとっての意味はお金だけではなかった。「3年間我慢してきたことが法的に正当だった」という確認ができたことの方が、精神的に大きかった。

未払い残業代の時効と請求方法

重要な法的知識として、未払い賃金(残業代含む)の消滅時効は2020年4月以降に発生したものは3年間(改正前は2年)だ。つまり退職後も含めて3年以内であれば請求できる可能性がある。

請求方法には大きく3つある。

  1. 労基署への申告:無料。行政的な調査・是正勧告が行われるが、会社が従わない場合の強制力は弱い
  2. 労働審判:家庭裁判所(実際は地裁)で行う簡易な手続き。弁護士費用は10〜30万円程度。3回以内の審問で解決を目指す
  3. 訴訟:最も時間・費用がかかる。50〜100万円以上。大きな金額を争う場合に適している

今振り返って思うこと

3年間サービス残業をした総時間は、概算で1600〜1800時間になる。時給換算すれば数百万円に相当するが、全てを取り返すことはできなかった。もっと早く動いていれば、回収できる金額も増えた。

「残業代が出ないのが普通」という職場の空気は、法律とは別の話だ。労働基準法は労働者を守るためにある。残業した時間には対価が発生するというのは、法律が定めた権利だ。

証拠を集めることへの心理的ハードルは高かったが、一度始めてしまえばそこまで難しくなかった。もし同じ状況にある人がいれば、まず証拠を集めることだけ始めてみてほしい。それが最初の一歩だ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の法律問題については、弁護士等の専門家にご相談ください。

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